アフリカへの古着輸出は「ゴミ投棄」ではない!?グローバル規模で捉える二次流通市場
循環する未来

[記事要約]
スウェーデン調査が示す経済価値: 2025年のIVLスウェーデン環境研究所の調査は、「アフリカへの古着輸出=ゴミ投棄」という通説を覆し、スウェーデンからケニアへの流通が厳格な品質管理と雇用創出を伴うビジネスであることを示した。
経済を支える“光”と環境負荷という“影”: モザンビークでは人口の約85%が輸入古着を着用し、ケニアでも関連業者200万人、620万世帯が関与するなど古着ビジネスは地域経済に不可欠な一方、ガーナでは市場流入が処理能力を超え、売れ残り衣類が海岸や排水路でマイクロプラスチック汚染を引き起こすなど深刻な環境問題が顕在化している。
持続可能な越境リユースへの課題と鍵: 低品質品混入を防ぐ国際的品質基準、受入国での回収・処理インフラ、越境EPR型の費用負担とトレーサビリティの仕組み、現地アップサイクル支援などの対策が不可欠。しかし条件が整えば、グローバルな二次流通はモノの寿命を延ばし価値を再生する“新しい成長”モデルとして循環型経済を牽引できる可能性を持つ。
はじめに
「アフリカへの古着輸出は、先進国によるゴミ投棄である」—この言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。輸入された古着の40%がゴミだと語られることもあります。
しかし2025年7月、IVLスウェーデン環境研究所が発表した調査報告書が、経済的な実態に基づいてこの通説に反論しました。調査チームはスウェーデンからケニアまでの古着流通を追跡し、古着ビジネスの雇用や経済への貢献を詳細に示しています。
同時に、ケニアでは大量の衣類廃棄が環境問題を引き起こしているのも事実です。海岸に積み上がるファストファッションやブランド品の写真を目にしたことがある方もいるかと思います。
本記事では、調査結果と報道が伝える現地の状況からこの問題を読み解き、グローバルに広がる二次流通市場の現実を考えます。
スウェーデンの研究結果:アフリカ古着輸出は経済価値のあるビジネス

IVLスウェーデン環境研究所の調査では、衣類回収業者Humana Lithuaniaの依頼で、スウェーデン国内の回収地点からリトアニア・オマーンの仕分け施設、ケニアの小売までを視察とインタビューで追跡。関係者データを活用し、古着がどのように流通しているかを調べました。
調査によれば、2024年にスウェーデンで回収された使用済み繊維は約1.1万トン。専用施設で400を超えるカテゴリに仕分けされ、廃棄はわずか約8%にとどまりました。輸出されるのは、品質基準を満たしたリユース向け衣類のみです。
また欧州での回収・仕分けからケニアでの小売まで、古着取引は多くの雇用を生み、現地の小売業者も戦略的な価格設定などでビジネスを成長させています。国境を越えた古着ビジネスには経済的・社会的な価値があることを調査は示しています。
さらに、調査は「投棄は採算割れ」と指摘します。ケニアでは「ミトゥンバ(古着)」に高額な輸入税が課され、輸送コストは約40%、1キログラムあたり約0.62ユーロに相当します。輸入後に繊維を廃棄することは経済的に不合理なのです。
また、仕分けや再販売を担うのは慈善団体が多く、得られた収益が慈善活動に再投資される例も少なくありません。資源利用と経済成長を両立させ、循環経済をグローバルに実装する観点から言っても、輸入古着にはポジティブな側面があるといえます。
Humana Lithuaniaのオルヤン・オステルダールCEOも「EUが新たな回収制度やEPR(拡大生産者責任)を導入する中で、グローバルな衣服リユースが繊維の循環経済を実現するための重要な解決策であることを認識することが不可欠だ」と語ります。
アフリカでは何が起きているのか。経済を支える“光”の側面

今回の調査は突如として現れたわけではありません。アフリカ各国では、輸入古着が生活の必需品であると同時に、地域経済を支える産業として成長しているという事実はこれまでも指摘されてきていました。
ケニア同様、盛んに古着を輸入しているモザンビークでは人口の約85%が輸入古着を日常的に着用し、2次流通市場は百万人以上の雇用を創出しています。業界内のベンダーの月収は平均650ドルに達し、最低賃金90ドルを大きく上回ります。
ケニアにおいても、輸入衣類の95%はリユース服であり、古着市場には200万人の関連業者と約620万世帯が関わっているという調査結果があります。生活を支える重要産業として、輸入古着は欠かせない存在になっています。
「誰も私たちに無理やりゴミを押し付けているわけではない。私たちが買っているのは良質な衣服であり、もし仕入れ先がゴミを売ろうとするなら喜んでその貨物を拒否する」——ケニアのミトゥンバ連合協会のテレシア・ワイリム・ンジェンガ会長は、輸入された中古衣料は国の生計を支えて税収も生んでいると指摘し、メディアにこう訴えています。
環境にのしかかる“影”の現実
一方で、受け入れ能力を超えた古着の環境負荷は深刻であり、無視はできません。
西アフリカ最大の古着市場であるガーナの首都アクラ・カンタマンタ市場には、毎週1,500万点以上の中古衣料が到着します。活発な取引が行われる一方で、最大40%が売れ残り、最終的に廃棄されていると推計されています。
この「40%」は入荷時点のゴミではなく、市場で売れ残った結果として廃棄される衣類を指すため、「輸入古着の40%はゴミ」という通説は誤解を含みます。
しかし、処理能力を超えた衣類が流入していることは確かです。エレン・マッカーサー財団によると、ガーナの衣類廃棄品の約30%は埋立処分され、残る70%は環境中に放置されていると報告されています。ゴミ処理のインフラやリサイクル回収システムが十分に整っていないガーナの処理能力を廃棄物の量が超えた結果、海岸や排水路には巨大な布の塊が堆積し、マイクロプラスチック汚染を助長するなど、現地の海洋生態系や生活環境に深刻な影響を与えています。

このように、輸入古着は経済的価値を生み出す “光”である一方、売れ残った衣類が環境に大きな負荷を与える“影”も伴います。
アフリカへのリユース衣類輸出は、単なるゴミ捨てと断じることはできません。しかし最終的に廃棄物となる衣類の処理責任が受け入れ国に偏っているのも事実です。経済と環境、双方のバランスをいかに保つかが、持続可能な二次流通市場を築く鍵となります。
グローバルな二次流通市場を持続可能にするために残る課題
国境を越えた二次流通市場がモノの寿命を伸ばし、より多くの人に価値を巡らせる一方で、真の循環型ビジネスとして持続するには以下のような課題解決が不可欠です。
輸出前の仕分け精度と品質基準の担保
EUの「廃棄物輸送規則」では、廃棄物は域内処理が原則とされています。低品質品が混入すれば受入地での廃棄負荷と環境汚染が増幅するため、輸出元での品質基準の国際的整合が欠かせません。受入地での最終処理・回収インフラ
ガーナでは回収された繊維製品の多くが埋立または環境中に放置され、海岸やラグーンの汚染へとつながっています。現地自治体や事業者、国際支援による回収・中間処理・材料化の整備が急務です。拡大生産者責任(EPR)のグローバル連携
EPRとは、生産者が製品のライフサイクルの最後まで責任を持つことを言います。EU域内で進むEPRを越境リユースに適用し、受入国の最終処理費用やインフラ投資へ接続する仕組みが必要です。基金拠出、品質の最低基準、トレーサビリティなどが重要な要素となります。現地の修理・アップサイクル支援
アフリカ現地でのアップサイクルやリサイクル起業を支援することで、売れ残りを価値化し廃棄流出を抑制する動きを広げることが期待されます。スケールには政策と資本の後押しが求められます。
越境リユースを「資源循環」にするために
アフリカ向け古着輸出は、品質管理と責任あるライフサイクル設計が機能すれば、資源を循環させる持続可能なビジネスになり得ます。しかし、ガーナの例が示すように、過剰流入と最終処理のボトルネックが海岸やラグーンへの漏出という深刻な外部不経済を生んでいる現状もあります。
輸出前の国際的な品質基準化、受入国での回収・中間処理・資源化インフラの整備、そして越境をまたぐEPR型の費用負担とトレーサビリティを束ねるなどの解決策をとることで、リユースの価値と環境負荷のトレードオフを解消していく必要があります。
グローバルな二次流通は、モノの寿命を延ばし価値を再生する“新しい成長”のモデルとなる可能性を秘めています。適切な仕組みを整えれば、世界中でモノの価値を最後まで活かす循環型経済の起点となるかもしれません。アフリカへの古着輸出が映し出す現実は、その未来像と、そこへ至る道のりに潜む課題を私たちに突きつけています。
参考・画像出展:
abc: Dead white man's clothes: How fast fashion is turning parts of Ghana into toxic landfill
Ellen MacArthur Foundation: EPR for Textiles in Ghana
Fashion Dive: Ghana secondhand Kantamanto Accra waste
Pulitzer Center: Merino blend & microplastic monsoon: Hidden health hazards of leftover clothing
IVL: From Collection to Sale — Researchers Followed Textiles Exported for Reuse
Citizen Digital: Kenya’s Mitumba Traders Lobby Against EU Export Restrictions
POLITICO: EU countries pitch to tackle textile pollution; some countries warn harm to second-hand sellers