循環型社会へ向けた世界の最新の潮流:基礎用語の解説と欧米の取り組み編
循環する未来

[記事要約]
資源循環と経済成長を両立した循環型社会への道筋:今、世界では大量生産・消費・廃棄のリニア型経済から、資源循環と経済成長を両立した循環型社会への転換が求められている。欧州の規制に牽引される形で、素材や製品のリサイクルや資源の使用量低減は各国足並みの違いがありながらも進むが、経済的な要素はまだ政府による支援や一部企業の自主的な取り組みに依っており、循環型社会実現の道のりはまだ遠い。
循環型社会が求められる背景:将来的な枯渇リスクのある地球の資源の節約、気候変動・環境問題の深刻化、そして経済成長の基盤構築を背景に、日本における循環型社会への転換は急務である。特に経済的要因について、サーキュラーエコノミー市場は世界的に拡大する見込みで、2050年には約25兆ドル規模、日本国内では2030年に80兆円規模となると推定されており、現段階からの適応が必須である。
欧州と米国での最新の潮流:EUと米国では、カーボンニュートラルなど目指す目標やタイムラインは類似しているものの、政治の力を使い戦略的に進めるEUと企業の自主性に委ねられた米国では方向性に如実な違いがある。EUでは、欧州委員会主導で条例・資金・産業戦略を結びつけた包括的な循環型社会の構築が進む一方、米国では先進的な企業が主導し、中長期戦略の一環で自発的に循環経済圏を構築している。
世界で広がる、循環型社会へ向けた取り組み
今、世界では持続可能な社会の実現に向けて、循環型社会を目指すさまざまな取り組みが加速しています。例えば、EUが掲げた温室効果ガスの排出ゼロ目標や、日本におけるプラスチック袋の有料化などはその象徴的な例です。こうした動きは、政治の場だけでなく、企業が自発的に環境保全に取り組むケースにも広がっており、一般的になりつつあります。
私たちLiberontもまた、新たな資源循環社会の創造をミッションに掲げ、独自の挑戦を続けています。今の日本には、まだまだ改革の余地がある。そう信じて、資源の循環の仕組みそのものを問い直し、日本が新しい「超資源循環国」として世界をリードする未来を描いています。
一方で、循環型社会という言葉自体は耳にする機会が増えているものの、それが具体的にどのようなものを指すのか、具体的なイメージが湧きにくいという方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、「そもそも資源循環や循環型社会とは?」という基本的な問いから出発し、世界の先進事例と日本の最新動向を紐解きながら、私たちの描く未来へ向けた現況認識を皆さんと共有していきます。本記事はその前編として、基礎的な用語の解説と、欧米での取り組みを紹介します。
そもそも、循環型社会とは?
循環型社会のベースにある概念が、「資源循環」です。資源循環は、廃棄物や使用済製品をリサイクル・再利用し、資源をできるだけ長く活用するプロセスや行動を指します。例えばゴミの分別や古い家電製品を回収に出すことなどは、日々の生活の中で私たちがとっている資源循環のアクションです。これを社会全体で幅広く行えば、資源が無駄にならず、廃棄物による環境への影響も抑えられます。
この資源循環と経済成長の両立を目指すシステムが、「サーキュラーエコノミー」です。資源の投入量と消費量を抑えつつ、今あるストックを有効活用しながら、サービス化などを通じて付加価値を生み出します。再生資源で新製品を生産したり、再生可能な素材を開発したりするのは、サーキュラーエコノミーならではの経済活動です。

「循環型社会」は、このサーキュラーエコノミーという経済システムが実装された社会です。これまでの社会が大量生産・大量消費・大量廃棄型と、生産から廃棄までが一直線のリニア型だったところから、資源の投入と消費を抑制し、消費したら再利用に回すことで、環境への負荷をできる限り低減させた循環型へと転換します。環境・経済・社会が調和し、将来の世代が豊かに暮らせる持続可能な社会を実現するための要素としても、循環型社会への取り組みが重要な役割を果たします。
日本に今、循環型社会への転換が必要な理由
循環型社会が今後の地球のためにも理想だということは分かりましたが、日本でなぜ、今、循環型社会への転換が求められているのでしょうか。
一つ目の理由が、環境・資源の節約です。世界の人口増加により資源需要は増大しており、将来的には枯渇するリスクがあります。そんな中で、資源自給率が低い日本は、このままだと将来的に輸入に依存するリスクに直面します。さらに、現在日本は多くの廃棄物を輸出していますが、国際的な廃棄物の輸出規制が進む中、このままでは最終処分場が逼迫する可能性も出てきます。
二つ目が、気候変動・環境問題の深刻化です。日本では2050年までにカーボンニュートラル達成の目標を掲げていますが、そのためには循環を意識した、製品の製造段階でのCO2削減が不可欠です。また大量利用・大量廃棄されたプラスチックの一部が海に流出して海洋環境を汚染する海洋プラスチックごみ問題もあり、廃棄物が引き起こす環境問題を根本から解決するためにも資源利用量を低減させ、循環を推し進める必要があります。
三つ目が、経済的な背景です。サーキュラーエコノミー市場は世界的に拡大する見込みで、2050年には約25兆ドル規模、日本国内では2030年に80兆円規模となると推定されています。また、グローバル企業の調達基準の厳格化により、循環性対応は市場への参加条件になりつつあります。世界市場の中で一プレイヤーとして発展していくためにも、日本経済のシステムを資源循環に適応した形へと組み替えていく必要があります。
規制で牽引するEU:包括的な経済圏構築が進む

循環型社会の実現に向けて、最も先進的な取り組みを進めているのが、欧州です。
現在のEUにおける包括的な環境政策は、2019年の「欧州グリーンディール」と、これを推進するための施策が盛り込まれた2020年の「サーキュラーエコノミー行動計画」です。前者では、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現を目標に掲げています。
この一環として、2025年2月に発効したのが、包装材のリサイクル率の向上と包装廃棄物の削減を目的とする「包装・包装廃棄物規則(PPWR)」です。EU域内の廃棄物の1/3が包装廃棄物であることや、リサイクル率の増加を上回るペースで包装廃棄物量が増えていること、またEUで使用されるプラスチックの約40%、紙の約50%を包装材が占めており、環境負荷が高いことなどを背景に、2030年までにEU市場のすべての包装材をリサイクル可能にすることを目指しています。多くの規制が2030年から適用されるため、EU域外の企業も含め、事業者にはそれまでに包装の削減、材料の見直し・転換、ラベリング、新たな物流やリユースシステムの導入などの対応が求められています。
また、2024年7月に発効したのが、「持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)」です。ESPR規則により、EU市場に出回るほぼ全ての物理的な製品において、エコデザイン要件を満たすことが規制化されました。製品の設計段階から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体で環境負荷を低減する狙いがあり、EU市場内に投入される製品の持続可能性を向上させることが目標です。

ESPRでは、エコデザイン要件に関する情報を容易に管理しアクセスできるように、デジタル製品パスポート(Digital Product Passport、「DPP」)の義務化もうたわれています。製品の使用材料やリサイクル性、廃棄方法などが記録された「身分証」のようなもので、市場に出た後のトレーサビリティを確保します。今後、製品グループ別の詳細が規定されていきますが、ESPRの発効で欧州とつながる事業者は対応を迫られています。製品のデータ把握だけでなく、要件を満たすための製品やプロセスの改善が必要となる場合もあり、新たなテクノロジーや材料への投資が求められる可能性もあります。
経済的な取り組みでは、2025年2月に政策文書の「クリーン産業ディール」が発表されました。欧州の製造業は厳しい競争環境の中で脱炭素化と成長を両立する必要があり、EUはその変化を支えるために、電気料金の引き下げ、クリーン製品需要の拡大、1000億ユーロの製造支援、また原材料の共同購入を通じた原材料確保の支援などの取り組みを進めます。
EUの取り組みの特徴は、欧州委員会主導による強制的なサーキュラーエコノミー関連規則の導入による、循環経済圏の構築を進めていることです。経済圏実現のための企業支援も充実しており、条例、資金、産業戦略を結びつけた包括的な体系を作り上げて、循環型社会への転換を推進しています。グローバル企業も規制への対応を余儀なくされており、世界を牽引しています。
先進企業主導の変革が急ピッチで進む米国

米国では、政府ではなく、主に先進企業が主導して資源循環への取り組みを進めています。
例えばAppleは、2030年までに自社のすべての活動において、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標を掲げています。2024年に出荷した製品は素材の24%が再生資源と再生可能資源でできており、使い終わった製品の回収・買取プログラムにも力を入れています。また2025年までに梱包材料からプラスチックを排除する目標を掲げており、現在梱包材料に使用されるプラスチックは2%以下です。
Microsoftは2030年までにカーボンネガティブを目指し、排出する炭素量を上回る炭素を大気から除去する計画を立てています。直近では電気の消費が多いデータセンターの効率化施策や、二酸化炭素を地中に貯蔵する環境保全企業との契約も発表されました。廃棄物ゼロ目標も掲げ、クラウドハードウェアの再利用およびリサイクル率89.4%を達成したほか、会社施設内で1.8万トンの廃棄物を再利用などに回し、製品の梱包材に含まれるプラスチックの量を2.7%まで削減しました。また2030年までにはOECD加盟国でSurfaceデバイスを100%リサイクル可能にすると表明しています。
以上の大企業の例に代表されるように、米国では、先進企業による競争を通じた自主的なサーキュラーエコノミー実現が、政府の関与を待たず急スピードで進んでいます。AppleやMicrosoftだけでなく、それらの企業のサプライチェーン内の事業者も独自の循環経済圏に取り込まれる形で、大企業各自の循環システムへの転換が進んでいます。
政権交代も要因となり、連邦レベルでの包括的な取り組みがない米国。EUのような政治主導の経済圏刷新というよりは、企業主導の新規モデルの創出が、変化を推し進めています。
おわりに
本記事では、循環型社会の意味するところと、欧米での先進事例を紹介してきました。規制を通じて強制的にでも社会システムの転換を推し進めるEUと、企業の自発的な取り組みに委ねられた米国とでは戦略に違いがありますが、積極的な姿勢は共通しています。欧米を中心としたサーキュラーエコノミーの経済圏は否応なしに拡大しており、今後は、循環型社会に「転換するか否か」ではなく、「どれだけ早く適応できるか」が他国に問われていくと思われます。
次回の記事では、このような世界的潮流の中での日本の動向と、Liberontが問う新たな循環型社会の可能性についてご紹介します。
参考:
資源エネルギー庁「循環経済とは?」
EU-Japan Centre「EU Green Deal 解説資料(PDF)」
三菱総合研究所「循環経済に関するレポート(PDF)」
European Commission「The European Green Deal」
欧州委員会「More environmentally sustainable and circular products」
EY Japan「EU包装・包装廃棄物規則(PPWR)の概説とビジネス影響」
EU理事会「Packaging policy overview」
駐日EU代表部「EU循環経済・気候政策資料(PDF)」
ジェトロ「欧州委、『クリーン産業ディール』を発表」
Apple Japan「環境への取り組み」
Circular Economy Hub「Microsoftのサステナビリティレポート紹介」