世界で広がる資源循環の波:Trove編
循環リテールの最前線

[記事要約]
・Troveが広げる公式リセールの新常識: Resale-as-a-Service (RaaS) は、ブランドと消費者の関係を変える仕組みとして、PatagoniaやCarharttと組み、信頼できるリセール体験と下取りの仕組みを広げています。信頼性ある中古品の流通、ストアクレジットによる下取りの仕組みを通じて、モノを大切に受け継ぐ購買体験が始まっています。
・リセールが生む新しい消費スタイルと成長戦略: 公式リセールは、モノを循環させる新たな消費文化を生み、ブランドにとっては売上・顧客基盤の強化、環境負荷低減、価格競争力向上の手段になっています。
・RaaSの拡大が示す未来のビジネスインフラ: RaaSは循環型社会のインフラとして、今後は規制や市場変化を背景に、欧米や日本でも急速に広がる可能性があります。モノを「ただ売る・捨てる」のではなく、「次の持ち主に価値を引き継ぐ」という文化をどのようにビジネスに組み込むかが、今後の問いとして広がっていくことが予見されます。
循環型社会へ向けて、拡大するResale-as-a-Service
サステナビリティへの意識が世界中で高まる中、ブランドの二次流通を支える循環型サービスが、今、注目を集めています。

本記事では、前回に続き、循環型サービスの6つのアーキタイプの中から特に注目度の高いモデルを取り上げます。今回焦点を当てるのは、Resale-as-a-Service(RaaS)型の企業、Troveです。
RaaSとは、ブランド企業が公式にリセール市場に参入する際のサイト運営や在庫管理を支援する、BtoBのビジネスモデルです。元々あった一次流通の流れの先にシームレスに2次流通を組み込むことで、ブランドが循環型の購買体験を実現するためのサービスを提供します。
今回紹介するTroveは、RaaS企業の先駆けとして2016年にローンチ。今では米国のリセール市場の75%を掌握するとも言われている業界リーダーです。パートナーブランドは公式リセールプログラムを導入することで、新規顧客獲得や売上向上に加えて、既存顧客との関係を長く保ちやすくなるだけでなく、環境負荷の軽減、ブランドイメージの向上といったメリットも期待できます。
Troveのサービスの仕組み

Troveは、ブランドが自社製品の中古品を買い取り、再販するためのテクノロジーとロジスティクスを提供しています。ブランドは、公式リユースサイトの構築や在庫管理、再販の物流など、独自のニーズに応じてリセールプログラムが構築できます。
Troveのパートナーとして特に有名なのは、米国におけるブランドのリセールプログラム導入の先駆けとなったPatagoniaです。その他にもLEVI’SやCarhartt、Lululemonといった、ブランドカルチャーが強く熱心なファンを持つ人気ブランドと数多く提携しており、こうした実績は公式リセールがビジネスの強化だけでなくブランドイメージの向上にも寄与することを裏付けています。
公式リセールが消費者とブランドにもたらすメリット

消費者にとっては、公式リセールはこれまでのブランドでの購買体験がリセールの領域へと広がる体験になります。新品と同じような形で手頃な価格のリセール品が買えるだけでなく、気軽に再販もできます。下取りの際にはストアクレジットが発行され、次の買い物にもつながります。
ビジネスにとっても、公式リセールは数多のメリットをもたらします。Troveのパートナー企業には、新規顧客獲得、売上増加、顧客との関係性の強化、そして環境への負荷の軽減などの実績が出ています。リセールの立ち上げは新規事業のローンチそのものですが、Troveのサポートにより負荷が軽減され、ビジネス全体としては新たな競争力をつけることができます。
TroveのCEOであるテリー・ボイル氏はこう言います。「私は”グロース重視”の人間で、リセール領域に関わるようになったのは、Troveがファッションブランドの成長に必要なツールを持っていると確信したからです。」
ボイル氏によると、リセールの魅力は、環境にポジティブな影響を与えられることだけではありません。リセールを活用することで、従来よりも手頃な価格で商品を提供できるようになり、H&MやSHEINなどの低価格ファッションブランドに対しても十分な競争力を持てることが新たな価値を産んでいると言います。

リセールがもたらす変化は、以上にあげた点に留まりません。消費者にとっては、愛用品が、ごみではなく価値あるモノとして次の持ち主の手に渡ること。ブランドにとっては、大事に作った製品が寿命をまっとうすること。人々がモノを愛する気持ちを形にして、商品を長く引き継いでいく仕組みを作るのが、Troveを始めとするRaaS企業が支える公式リセールプログラムです。
実証事例1:Patagoniaの公式リセールプログラム「Worn Wear」

Patagoniaは、米国のアウトドアブランドです。環境保護を中核に据えた経営と高品質の製品が特徴で、アウトドア好きな人を中心に幅広い支持を集めています。
ブランドが成長する中、環境にコミットするブランドとして、自社の成長と資源を守ることの両立に頭を悩ませていたPatagoniaは、古い製品を買い取り、リセール品として販売する「Worn Wear」プログラムを2017年にTroveと共同で立ち上げました。商品の寿命を伸ばすことで、環境へのインパクトを減らし、新品の生産にブレーキをかけようとしたのです。
結果として、「Worn Wear」は米国でのブランドの公式リセールプログラムの先駆けとなりました。2020年までに12万点のリセール品を販売し、下取りによるリセール品の在庫価値は520万ドルを超えました。新しい顧客層も取り込み、商品がブランドを愛する人によって長く使われる仕組みを作り上げた「Worn Wear」は、環境保全企業として知られるPatagoniaの哲学を具現化した取り組みとして敬愛されています。
Patagoniaが始めたリセールへの取り組みは、当時は革新的なものでした。今では、数多くの米国のアパレルブランドがPatagoniaに倣ってリセールプログラムを取り入れており、大事に使ったモノをリセールできることが消費者の新しい当たり前となりつつあります。
実証事例2:Carharttの公式リセールプログラム「Carhartt Reworked」

Carharttは、135年の歴史を持つアメリカのワークウェアブランドです。頑丈で高品質なウェアは、アメリカの家庭で代々受け継がれる名品として愛されてきましたが、時代が変わる中でサステナビリティへの対応を求める声が社内外でも高まっていました。
2023年に、Troveとパートナーして「Carhartt Reworked」というリセールプログラムをローンチ。リセールに特化したサイトの構築から、中古商品の自動選定と在庫管理までを、Troveのテクノロジーを用いて実現しました。
結果として、2024年までに82,000点のリセール品を販売。86トンの商品をゴミになる運命から救いました。
循環社会への意識が高まる中、業界を問わず企業のサステナビリティへの取り組みは重要性を増しています。その流れの中で、TroveのようなRaaS企業のサービスが、これまでの「売って終わり」のモデルから「売った後の循環まで見届ける」モデルへの転換を支えています。
RaaSの今後の動向と日本での普及
Troveはこの数年、積極的なM&Aを通じて、アメリカ国内でのシェア拡大だけでなくヨーロッパへの進出も進めています。環境規制の影響で、リセール市場への参入を喫緊の課題として抱える欧州企業とのパートナーを増やしていく狙いです。
日本においては、Troveのような存在感を示すRaaS企業はまだいないものの、同様のサービスを提供する会社は存在しています。またブランドの公式リセールも増加しているほか、Patagoniaの「Worn Wear」プログラムも日本へ進出しており、今後、サステナビリティや循環型経済への関心の高まりとともに、さらに拡大していく可能性が高いと見込まれます。
このような公式リセールの広がりは、モノ・消費者・ブランドの新たな関係性を作り出しています。人々は、モノを「使い捨てる」のではなく、「価値を引き継ぐ」前提で扱うようになってきました。その流れと並行して、モノの一生を見届け、リセールまでを視野に入れて顧客との関係を再設計するブランドも、RaaS型企業の支援によって次々と生まれています。
モノの使い方の常識が変化する中で、その文化をどのようにビジネスに組み込むか。循環社会への変革が進む中で、企業も新たな問いに直面しています。
モノの循環を通じて、消費のスタイルも、ビジネスのあり方をも変える大きな潮流が、今、世界中で広がっています。